浅田次郎「降霊会の夜」

日本に生まれてよかった。どんな作品を読んだときよりも、どんな美味しいお寿司を食べた時よりも、どんな美味しいお味噌汁を飲んだ時よりもそう思った。

 

さらに言うならば、東京で育ってよかった。東京が舞台となるこの作品を読むのに、首都圏出身であることがこの作品のニュアンスをつかむのに役立ったのかはわからないけど。

 

浅田次郎氏の作品を読むのは実は初めてである。中学校の先輩であることから気にはなっていたが、今まで読んでいなかった。かろうじて「地下鉄に乗って」の映画版は見ていたけれど。Kindleセールに感謝である。買ってもしばらく積んでいたのだけど。

 

人の過去における葛藤や後悔を描き、そこに諦念を非常に丁寧に織り込んでいる。それがとても上手いと感じた。また、日本人でないとこれは書けないだろう、日本人でないとわからないだろうとなんとなく感じた。

 

「地下鉄に乗って」も同じような雰囲気で、舞台は東京で、また、日常の中でふと不思議な世界に入り込む点でも共通していたような気がする。あまり覚えていないのだけど。もっと彼の作品を読み、浅田次郎の問題意識を知っていきたい。

 

この作品はおそらく他の誰にも書けないだろう。特に、外国人には。一部と二部(?)のつながりがあまり見えなかったと思うし、二部のオチなどは消化不良であるように思うけれど、非常に面白く読めた。

 

そういえば、

だから人生は、「さよなら」の連続なんだ。

という一節があったけれど、これは井伏鱒二のアレなんだろうか。

 

 

とにかく、この作品を読むまで生きていてよかった。